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東京バレエ団《ウィンター・ガラ》を観る

2月23日、東京バレエ団の《ウィンター・ガラ》を鑑賞した。トリプル・ビルのガラ公演。会場は、Bunkamura オーチャードホール。上演順に感想を述べていこう。

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●「中国の不思議な役人」(振付:モーリス・ベジャール 音楽:ベラ・バルトーク

音楽は録音が使用された。娘を入戸野伊織、中国の役人を木村和夫が踊った。踊りに造形感覚を認めることができず、芸術的だと思わなかった。

ジークフリートを踊ったブラウリオ・アルバレス(Braulio Alvarez)の肉体が特異だった。背は並に高いのだが、肉がとても厚い。筋肉質で、その筋(すじ)が、肉体を深く、豊かに彫琢する。出番が少なかったこともあり、その芸術性は分からなかったが、注目させられた。プログラムによると、メキシコ・シティ出身。ハンブルク・バレエを経て、昨年、東京バレエ団に入団したという。

 

●「イン・ザ・ナイト」(振付:ジェローム・ロビンズ 音楽:フレデリック・ショパン) 

東京バレエ団初演作品だという(日本のバレエ団としても初)。全体は四つの部分に分かれており、三組のカップルが順に登場する。そして最後は全員の踊りで幕となる。 音楽はショパン夜想曲ノクターン)から、作品27-1、作品55-1&2、作品9-2。客席と同じ高さにしたオーケストラ・ピットの下手端にピアノが置かれた。演奏は松木慶子。女性ダンサーを中心に観た。

初めに踊ったのは沖香菜子と秋元康臣。沖は上手い。しかし訴えるものを感じなかった。彼女の踊りに一本、筋が通っているとして、それを捉えることができなかった。

次に登場したのは、川島麻実子とブラウリオ・アルバレス。彼女の踊りには、確かな造形性が認められた。かたちに平たんなところがなく、全身に神経がゆきとどいて、硬質。その中にあって、ふいに上げられた脚の有機性が、一瞬、エロスを振り撒(ま)く。完成度の高い芸術だったと思う。

最後に登場したのは、上野水香と柄本弾。上野は背が高く、肉体に存在感がある。引き締まりすぎず、柔和な雰囲気だ。踊りの造形性は高くない。また、まれにやや崩れる。しかし気にならない。かたちへの意識が踊りを支えているからだ。むしろそれらの特徴は、その肉体性とあいまって、独特の美を醸した。

松木の演奏は申し分なく、ダンサーとともにバレエをつくりあげていた。

 

●「ボレロ」(振付:モーリス・ベジャール 音楽:モーリス・ラヴェル) 

音楽は録音が使用された。メロディーを踊ったオーレリ・デュポン(Aurélie Dupont)は、現在、パリ・オペラ座バレエの芸術監督。2015年にオペラ座のダンサーを引退してからも踊り続けている。背は特に高くなく、肉体も特別引き締まっているわけではない。

はじめから嫌な予感はした。両腕がつくるシンメトリーが不自然に崩れていたのだ。肉体からはオーラも感じられない。次第に明らかになってきたのは、踊りの、音楽にたいする無関心だ。有機的な関係を結ぶのでもない、かといって、無機的な緊張を走らせるのでもない。両者の間には、芸術的に無関係といえる、深い溝が横たわっていた。曲が進むにつれ、疲れが垣間みられるようになると、肉体はいよいよ、日常の生の延長線上に引きずりこまれてしまう。そこにバレエの美、肉体の「死」と生の輝きはない。凡庸なダンスが続いた。終始、音楽に踊らされていたと思う。

彼女の踊りを観るのは2015年に続いて二度目だが、今回もその芸術性を知ることはできなかった。