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東京バレエ団《ドン・キホーテ》を観る(世界バレエフェスティバル 全幕特別プロ)

7月27日、第15回 世界バレエフェスティバル(World Ballet Festival)全幕特別プロ《ドン・キホーテ》(全2幕)を鑑賞した(ウラジーミル・ワシーリエフ版)。会場は、東京文化会館

世界バレエフェスティバルは、三年に一度、日本で、開催される、フェスティバルだ。

全幕特別プロは、27日、28日に東京、8月18日に、大阪で公演があり、8月1日から始まる、ガラ公演(東京)に出演するダンサーが、主役を務める。初日の27日は、パリ・オペラ座バレエから、ミリアム・ウルド=ブラーム(Myriam Ould-Braham)と、マチアス・エイマン(Mathias Heymann)、28日は、アリーナ・コジョカル(Alina Cojocaru/イングリッシュ・ナショナル・バレエ)と、レオニード・サラファーノフ(Leonid Sarafanov/ミハイロフスキー劇場バレエ)*1、8月18日には、ボリショイ・バレエから、マリーヤ・アレクサンドロワ(Maria Alexandrova)と、ウラディスラフ・ラントラートフ(Vladislav Lantratov)が、それぞれ、キトリとバジルに、配役された。主体は、東京バレエ団

大ホール入口には、大入の札が出ており、チケットは、完売だったようだ。

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ウルド=ブラームの踊りは、ちょうど一年前、パリ・オペラ座バレエと、ロイヤル・バレエのダンサーによる、ガラ公演「バレエ・スプリーム(Ballet Supreme)」*2を観て以来。この時も、《ドン・キホーテ》から、キトリのヴァリエーションと、パ・ド・トロワを踊ったが、他の、オディール、オーロラ姫、《チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ》、さらには、同年三月、初めて彼女の踊りを観た、パリ・オペラ座バレエ来日公演「グラン・ガラ」における、《テーマとヴァリエーション》*3と比べ、創造性を、あまり、感じなかった。

その印象は、今回も、概ね、変わらなかった。

バランシン作品でみせた、こまやかな、肉と技の、品ある柔らかさ。あるいは、古典作品で、その程度が高まったときの、肉体のきらめき。そういった、堪能された、彼女の芸術は、今回も、明らかにされることはなかった。また、それらに比肩する、芸術を、別様に、感じることも、できなかった。第1幕第3場、ドン・キホーテの夢で、ドルネシア姫として(クラシック・チュチュで)踊ると、彼女の美質、こまやかな造形は、もう少し、明らかになったが、(長いスカートの)キトリだと、隠蔽される傾向があると、思わせた。しかし、それでも、芸術的なバレエであると、伝わった。キトリは、ウルド=ブラームの芸術にとって、大味なのではないか。彼女は、「大技」で魅せる、バレリーナなのだろうか(彼女はそれを、やってのけるが)。繊細な舌をもつシェフには、それに相応しい、食材──例えば、より音楽性の高い振付け──が必要なのではないか(偶然だが、これまで感銘を受けた踊りは、皆、チャイコフスキーの音楽だった)。

本篇のガラでは、もう一度、《ドン・キホーテ》からと、《ジュエルズ》から、‘ ダイヤモンド ’ を踊るという。期待しつつ、こちらも、もう一度、新鮮な眼で、彼女の芸術を、眺めたいと思う。  

エイマンは、パリ・オペラ座バレエ来日公演、バレエ・スプリームでも、ウルド=ブラームと、組んで、踊った。

第二幕、グラン・パ・ド・ドゥの跳躍で、肉体に、軽み──〈(反)-肉体〉──を与えたのが、印象的だった*4

メルセデスを踊ったのは、奈良春夏(ファーストソリスト*5/2001年入団)。

登場しての跳躍が、軽やかで、着地音が、聴こえない。

色気のあるバレリーナだ。しかし、それは、芸術との結びつきを、示すものではなかった(例えば、イリーナ・コレスニコヴァ(Irina Kolesnikova)*6や、アマンディーヌ・アルビッソン(Amandine Albisson)*7のように)。

2人のキトリの友人と、グラン・パ・ド・ドゥのヴァリアシオンを踊ったのは、吉川留衣(ソリスト/2002年入団)と、二瓶加奈子(ソリスト/2008年入団)。

ともに、特に、脚が細く長く(ウルド=ブラームより)、好感のもてる踊りだったが、吉川に注目されられた。

頭から、脚まで、やや、骨を感じさせる肉付きが、目を引いた。主役二人と踊っても、彼女を見てしまう。しかし、そこには、決定的な違いが、あったように思う。ウルド=ブラームが、〈バレエ〉から現れて、表現そのものになっていたのに対し、吉川(のみならず、この日、ソロを踊った、多くの東京バレエ団ダンサー)は、肉体が、〈バレエ〉に接続しつつも、それを、追うように、感じられたのだ。バレエを踊ってはいるが、そこに、「ずれ」があるから、彼女の芸術性が、どこにあるのか、ぼやけて、分かりづらい。東京バレエ団の公演を鑑賞するのは、昨年冬の、「ウィンター・ガラ」以来、一年半ぶりで、その時は、《イン・ザ・ナイト》(振付:ジェローム・ロビンズ)で、プリンシパルの、上野水香(牧阿佐美バレヱ団を経て、2004年入団)と、川島麻実子(2006年入団)の踊りを観たが、〈バレエ〉であった(当時、ファーストソリストだった、沖香菜子(プリンシパル/2010年入団)も含め、男女三組のカップルが踊ったが、彼女には、吉川と、同じようなことを、感じた*8)。かつて、パリ・オペラ座バレエの、オニール・八菜(Hannah O'Neill/プルミエール・ダンスーズ(第1舞踊手)*9)は、「(エトワールについて)第1舞踊手でも主役は踊れますが、この二つにはほんの少しに見えて、大きな差が確実にある」と述べていたが(2017年6月24日 朝日新聞be)、それは、この、〈バレエ〉に対する、差異を、指しているのでないか。

ドリアードの女王を踊ったのは、三雲友里加(ソリスト/2010年入団)。

彼女の踊りは、硬く、バレエとして、評価することは、できなかった。

3人のドリアードでは、政本絵美(セカンドソリスト/2009年入団)に、目が止まった*10

彼女は、身長もあり、吉川とは対照的に、やや、肉づきのよい(脚、背中等)、バレリーナだ。踊りの造形も、よい。もう少し、じっくり、観てみたかった。

ワシーリエフ版の、《ドン・キホーテ》を鑑賞するのは、2014年秋以来、4年ぶりとなる(東京バレエ団*11

その時も、そうだったが、キューピッドは、必ずしも、芸術性高く、踊られなくとも、そこに、断片的に、〈バレエ〉からの、現れを、新鮮に、見出すことができた。今回は、足立真里亜(ファーストアーティスト/2015年入団)が踊り、上に撥ねる脚に、古典に収まらない、躍動をみたし、前回、松倉真玲(2018年退団)の踊りには、造形性が甘くとも、やはり、全体に、弾むような、感じがあった。一方、若いジプシーの娘は、それぞれ、伝田陽美(ファーストソリスト/2008年入団)と、高木綾(2015年退団)が踊ったが、(衣裳が、身体を隠してしまうこともあるのか)「完璧」に踊っても、〈バレエ〉と感じられることは、なかった。それだけ、難しい役なのかもしれない。

群舞は、ドン・キホーテの夢で、下手、四人のバレリーナが、アンサンブルで踊ると、脚に、〈肉〉を感じた。三年前の《ラ・バヤデール》*12、あるいは、四年前の、東京バレエ団創立50周年「祝祭ガラ」*13における、影の王国で、群舞が、高度に統率されていながらも、それ以上ではなかったのとは、一線を画する。他のアンサンブルも、目に入るかぎり、個々のバレリーナに、造形性が、認められた。

演奏は、ワレリー・オブジャニコフ(Valery Ovsyanikov)指揮、東京フィルハーモニー交響楽団

東フィルの演奏は、上手かったが、例によって、音楽が、単に、平板だった。

 * * *

二ヶ月ぶりのバレエ鑑賞で、バレエが好きだと、再認識させてくれる、公演だった。半分は、ウルド=ブラームと、エイマンによって。そして、もう半分は、東京バレエ団によって。心から美しいと、感じることは、決して多くはなかったが、それぞれのダンサーや、アンサンブルに、いままで以上の、可能性を感じた。

*1:当初、イングリッシュ・ナショナル・バレエの、セザール・コラレス(Cesar Corrales)が予定されていたが、脚の怪我のため、キャンセルとなった。

*2:Aプログラム、2017年7月26日鑑賞。Bプログラム、2017年7月29日鑑賞。文京シビックホール

*3:感想は以下。パリ・オペラ座バレエ来日公演《グラン・ガラ》を観る - op.1

*4:昨年、アメリカン・バレエ・シアターを、プリンシパルで退団した、ヴェロニカ・パールト(Veronika Part)も、そのような芸術を、示したことがある(《くるみ割り人形》(振付:アレクセイ・ラトマンスキー)、2014年2月20日オーチャードホール)。ただし、エイマンは、細いダンサーだが、彼女は、背が高く、比較的、肉づきも、よく、在り方は、異なる。

*5:東京バレエ団は、プリンシパル、ファーストソリストソリスト、セカンドソリスト、ファーストアーティスト、アーティストの、六階級制。

*6:サンクトペテルブルグ・バレエ・シアター、《眠れる森の美女》、2015年9月6日、オーチャードホール

*7:一例として、《ダフニスとクロエ》(振付:バンジャマン・ミルピエ)の、クロエを上げる。パリ・オペラ座バレエ来日公演《グラン・ガラ》を観る - op.1

*8:感想は以下。東京バレエ団《ウィンター・ガラ》を観る - op.1

*9:パリ・オペラ座バレエは、エトワール、プルミエ・ダンスール/プルミエール・ダンスーズ、スジェ、コリフェ、カドリーユの、五階級制。

*10:当日配布された、配役表では、3人のドリアードは、伝田陽美、政本絵美、柿崎佑奈、となっているが、主催のNBS(日本舞台芸術振興会)や、東京バレエ団のHP、英文の配役表では、政本絵美、榊優美枝、柿崎佑奈、となっている。会場に掲示された配役表は見なかったが、おそらく、後者が正しいと思う(28日の配役も、同じく、加藤くるみ、政本絵美、柿崎佑奈、が、伝田陽美、政本絵美、加藤くるみ、となっている)。

*11:2014年9月21日、ゆうぽうとホール。

*12:2015年6月12日、東京文化会館

*13:2014年8月31日、NHKホール。