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op.1

ballet/orchestra/Mozart/Mahler/criticism

キエフ・バレエ来日公演「新春特別バレエ」を観る

1月3日、キエフ・バレエ(Kyiv Ballet タラス・シェフチェンコ記念ウクライナ国立バレエ)来日公演の初日、「新春特別バレエ」(Ballet Gala in New Year)を鑑賞した。会場は東京国際フォーラム ホールA。《パキータ》、《白鳥の湖》、《眠りの森の美女》から上演される3部構成のガラ公演。演奏は、ミコラ・ジャジューラ(Mykola Diadiura 音楽監督(Chief Conductor)) 指揮、ウクライナ国立歌劇場管弦楽団が務めた。

ダンサーを中心に感想を述べていこう。

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第1部は、ミハイロフスキー劇場バレエより、イリーナ・ぺレン(Irina Perren)とレオニード・サラファーノフ(Leonid Sarafanov)を迎えて、《パキータ》から上演された。ウラジーミル・マラーホフ(Vladimir Malakhov)が改訂振付したヴァージョンだという。

パキータを踊ったぺレンは、足の甲の有機性が群を抜いており、踊りも上手かった。しかし、肉体の造形は微温的で、彼女の芸術性を示すには至らなかったようだ。

サラファーノフはリュシアンを端正に踊った。しかし、造形が崩れることがあり、出番も比較的少なかったため、その芸術を堪能できなかった。

キエフ・バレエの女性ダンサーは、パ・ド・カトルやヴァリエーションを踊ったバレリーナはよいのだが、群舞となると観ることができない。「踊れていない」のだ。かたちをつくらない。「かたちをつくらない」バレエも可能だろうが、かたちへの見識は必要だ。踊りが合わないと、よけい、それらが目立って見えた。 

 

第2部は《白鳥の湖》から第一幕第二場が上演された。

オデットを踊ったのは、ファースト・ソリストカテリーナ・カザチェンコ(Kateryna Kozachenko)キエフ国立バレエ学校などで学び、2002年にキエフ・バレエに入団したという(キエフ・バレエは、Ballerina and Premier, First Soloist, Second Soloist, Soloist, Ballet Artist の5階級制)。

登場してすぐ、そのスタイルに注目させられる。背はとても高く身は細い。また、腕と脚は長い。その程度は、この日出演したバレリーナのうちでも、一二を争うものだった。

踊りもよかった。造形にはやや甘さが認められるものの、その一つひとつに神経が行き届いているから、「バレエ」を踊っていると感じさせる。少しくらい造形が弱くとも、それを受け止め、丁寧に踊れば、鑑賞に堪えるバレエとなる。身の程を弁えることもまた、バレエの作法なのだろう。 

コール・ド・バレエは、脚の比較的太いダンサーが多かった。背も高くはない。しかし、それらは本質的な問題ではないように思われる。踊りに造形感覚の認められないこと、しばしばであったのが美しくなかった。全体として、そこにバレエ芸術を感じることはできなかった。  

 

第3部は《眠りの森の美女》から第三幕が上演された。

エレーナ・フィリピエワ(Olena Filipieva)がオーロラを踊った。1988年よりこのバレエ団に籍をおくというから、相当なヴェテランだ。現在バレリーナ(最高位)。

彼女も踊りは上手い。しかし、芸術性は何かと問われると答に窮する。隅々にまで神経が行き届いておらず、バレエとしては凡庸だったのだ。

デジレ王子を踊ったのはファースト・ソリストミキタ・スホルコフ(Mykyta Sukhorukov)。細く引き締まった体、きれいにコントロールされた技術。爽やかな肉体美を味わった。

フロリナ王女を踊ったのは、同じくファースト・ソリストオレシア・シャイターノワ(Olesia Shaytanova)キエフ国立バレエ学校を2013年に卒業したというからとても若い。 

彼女は肉づきのいいダンサーだ。きめの細かい肌が、胸から上、そして腕にかけて、穏やかなふくらみを感じさせる。一方、脚、殊に太ももは、バレリーナとしてはたっぷりと言ってよいほどに厚みがある。背は必ずしも高くない。

踊りは端的ではないが、ある一定以上の造形性が認められる。

美はにわかに現れた。脚をいきおいよく垂直方向にあげ、惜しげもなく肉体を開くと、そこに高い官能がもたらされる。芸術によって充分にエロスに昇華されていながらも、セクシャルな香りを漂わす肉。シャイターノワの踊りは、造形を通じてというより、造形によって、肉そのものに主張させるバレエだった。

彼女の踊りは一年半前、《バヤデルカ》と《海賊》のパ・ド・ドゥを観ている。その時は造形感覚に乏しく、いびつな踊りという印象を受けた。今回は造形性が高まったため、その美質が露になったのかもしれない。

カザチェンコはリラの精を踊り目立っていたが、もう一人、赤ずきんを踊ったカテリーナ・シロチナ(Kateryna Sirotina)が目についた(バレエ・アーティスト)。やや小柄で、脚の細さに特徴がある。とても細いといえ、その「小ささ」は、脚だけ見ても彼女と分かるほどのものだった(同様のバレリーナに、マリインスキー・バレエのスヴェトラーナ・イワーノワ(Svetlana Ivanova)がいる)。

 

ジャジューラと ウクライナ国立歌劇場管の演奏は、音に平板なところがあり、技術もやや難があるが、聴いていて不快にならなかった。音楽に一本、筋が通っていたからだろう。つまり、歌に貫かれ、無味乾燥に陥ることがなかった。単なる伴奏以上の役割を果たしたと思う。

 

* * * 

キエフ・バレエは以降、約十日にわたって、東京、神奈川、千葉で、《白鳥の湖》、《眠りの森の美女》、《バヤデルカ》を上演する。また、一年後、ウクライナ国立歌劇場創立150周年記念として、キエフ・オペラとともに、キエフ・バレエの来日(《くるみ割り人形》ほか)が予定されているという。