op.1

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エイフマン・バレエ《アンナ・カレーニナ》を観る

7月21日(日)、エイフマン・バレエ(Eifman Ballet)*1来日公演、《アンナ・カレーニナ》(振付:ボリス・エイフマン)*2を、鑑賞した(東京文化会館、14時開演)。19日の、《ロダン》(振付:ボリス・エイフマン)に続いての、鑑賞*3。東京公演は、18日、19日(以上、《ロダン》)、20日、21日(以上、《アンナ・カレーニナ》)の、4公演だった*4

アンナ・カレーニナ》は、全2幕。レフ・トルストイの小説(1875-77年)を受け、エイフマンが、バレエとして、振付けた(2005年)*5。音楽は、チャイコフスキー作品の、抜粋で、今上演も、《ロダン》同様、録音が、用いられた*6

ソロを踊るのは、題名役の女性ダンサーと、二人の男性ダンサーで、他は、群舞だった(《ロダン》は、題名役の男性ダンサーと、二人の、女性ダンサーが、ソロを踊り、他は、群舞だった)。

 

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レーニンを踊った、セルゲイ・ヴォロブーエフ(ソリスト*7、ヴロンスキーを踊った、イーゴリ・スボーチン(ソリスト*8と、よかったが、アンナを踊った、ダリア・レズニク(ソリスト*9に、引かれた。

背が高く、四肢は長く、細く、バレリーナとして、「恵まれた」、肢体。技術もあり、しなやかに踊れ、脚は、有機的に、極めて高く、上がる。開(あ)いた背中は、比較的滑らかで、全体的にも、あまり、筋肉を、感じさせない。1997年10月、ウラジオストク生れ。2016年、ワガノワ・バレエ・アカデミーを卒業し、エイフマン・バレエに、入団したという。

ドレスから覗く、白い脚は、華やかな形をしても、上品に見え、ぴんと伸ばすと、その先で、薄いピンクに包まれた、トゥシューズの甲が、平らなつま先にかけ、隆起しながら、輝いている。一転、脚を、後ろへ、反らすと、グロテスクなまでに、湾曲する(他にも、同じく、バレエの型を、はみ出して、アンナの、暗部を、垣間見せた)。

最後に、彼女は、ドレスを脱ぎ、ベージュのタイツで、長い髪を、ほどいて、踊る。そこでは、不思議と、あの、脚の魅力は、消え、しっとりした肉感(にっかん)が、汗を帯びて、存在していた。

レズニクのアンナ。それは、レズニクであり、アンナであった。しかし、確かに、芸術的に、そうだったと、言い切ることは、出来ない。彼女は、バレエを観る喜びを、与えてくれたが、これこそ、レズニクの芸術と、確信することは、出来なかった。多分に、匿名的な、踊りだった*10。また、エイフマンは、アンナを、多面的に描きつつ、彼女を、凄惨な最期に帰着させた、「何か」を、振付けに、籠めなかった*11(ここで、アンナは、誰かと、問われれば、畢竟、それだろう*12)。

チャイコフスキーの音楽は、名曲から、多く、抜粋された。録音は、劇場で、生の踊りと、一緒になると、場違いに、感じられた。それなら、(積極的に、バレエを構成しない、)「額縁」でも、生のオーケストラで、聴きたかった。レズニクの踊りを観ると、余計、そう思う。

群舞は、バレリーナや、男性ダンサーの、「恵まれた肢体」*13のもつ、肉体の存在感が、目についた(第一幕冒頭や、タイツで踊られる、第二幕最後)。《ロダン》でもそうだったが、踊りも、上手い。しかし、コール・ド・バレエとしての、芸術、美を、認めることは、出来なかった(それは、振付けによるところが、大きいと、思う)。

 

* * *

 

終演後、エイフマンも、舞台に現れ、何度も、カーテンコールが、繰り返された。

 

配役表は、以下。

【キャスト表】「アンナ・カレーニナ」エイフマン・バレエ|ニュース|音楽事務所ジャパン・アーツ

*1:1977年、ボリス・エイフマン(Boris Eifman)により、サンクトペテルブルグに、創設。The Company  エイフマンは、1946年生れ。ロシア出身。現在、エイフマン・バレエ、芸術監督。Boris Eifman

*2:Anna Karenina

*3:ロダン》評は、以下。エイフマン・バレエ《ロダン》を観る - op.1

*4:13日には、大津で、《アンナ・カレーニナ》、15日には、静岡で、《ロダン》を、上演した。エイフマン・バレエ 日本公演2019 特設サイト-チケット概要-

*5:「エイフマンの作品は、ほぼすべてにストーリー、それもしばしば文学作品に基づいたものがある」(公演プログラム)。

*6:楽曲リストは、以下。エイフマン・バレエ 日本公演2019 特設サイト-アンナ・カレーニナ-

*7:1986年生れ。ウクライナ出身。2004年入団。Sergey Volobuev  エイフマン・バレエは、ソリスト、コール・ド・バレエの、二階級制。Ensemble

*8:1991年生れ。ウクライナ出身。インペリアル・ロシア・バレエ(2011-12年、ソリスト)、ロシア国立バレエ・モスクワ劇場(2012-13年、ソリスト)を経て、2013年入団。Igor Subbotin

*9:1997年生れ。ロシア出身。2016年入団。Daria Reznik

*10:一方、レズニクは、アンナを、こう、捉えている。「まさにアンナが持っていなかったものこそが、愛、熱情でした。結婚して子供もいたけれど、愛を知らなかった」。『アンナ・カレーニナ』出演ダンサー インタビュー|ニュース|音楽事務所ジャパン・アーツ  レズニクのアンナを、愛することは、出来なかった。

*11:エイフマンは、《アンナ・カレーニナ》の意図について、次のように、述べている。「この小説では、ヒロインの精神世界に侵入しているだけでなく、彼女の個性をその精神に潜んでいる官能性(psycho-erotic)の面から現実的に解釈して描いています。現代文学においてすら、これほどの情熱(passions)、変容、連続する幻想を描いた作品は見当たりません。この小説を舞踊化するにあたり、私はこれらの要素を核心に据えました。… アンナは自由になって悲惨で苦しみに満ちた人生を終わらせるために死を選びます」(公演プログラム)。原文は、以下。Anna Karenina  また、こうも、述べている。「身体は、嘘をつきません。身体は真実しか語りません」。”エイフマン・バレエとは…” ボリス・エイフマン スペシャル・インタビュー Vol.3|ニュース|音楽事務所ジャパン・アーツ  劇場という場は、特に、そのことを、強調する。unamateur on Twitter: "劇場が、娯楽以上の、機能を、持つことは、自明でない。劇場は、「本当のこと」を、教えてくれる「場」。それは、私たちにとって、必要な「装置」。劇場を一つ、なくすことは、思考の基盤を、一つ、奪われること。私たちは、〈劇場〉の存在を、証明し続ける。音楽によって、踊りによって、批評によって"(劇場には、政治家だけでなく、宗教家も、必要なのだ。「私(エイフマン)にとってバレエは仕事以上のものであり、私の存在意義、使命でもあります。ダンスという素材を用いて、天から与えられたものを伝えることを命じられたようなものです。自分の感情を芸術を通して表現する可能性がなかったら、感情に押しつぶされて窒息していたでしょう。私にとって、振付とはいわば宗教のような存在の芸術です」(公演プログラム)。)

*12:第一幕の冒頭、アンナの一人息子が、鉄道のおもちゃで、遊んでいる。恋愛に限らず、バレエという「遊び」も、結局、〈死〉が、絡んでくる。

*13:公演プログラムによると、男性184㎝以上、女性173㎝以上という、入団規定が、あるという。